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2024/11
海外予約サイトを使ってホテル予約。インボイス制度上の問題は?
手軽に予約できて便利だけど
業務上の必要により出張に行くために従業員が自らホテルなどの宿泊施設を予約し、後で経費精算するというのは珍しくありません。昔は旅行代理店に依頼したり、宿泊施設に直接電話したりなどして予約しましたが、今は宿泊施設予約サイトを使うのが一般的です。そして、宿泊施設予約サイトは「楽天トラベル」「じゃらん」など国内の事業者が運営するものだけでなく、「アゴダ」「エクスペディア」など海外の事業者が運営するものも増えてきました。24時間いつでも予約できて、タイミングよくキャンペーン期間が被ればお手頃な値段で宿泊施設に泊まれるというのがメリットです。
これらの予約サイトを使う際はインボイス制度との関係で注意すべきことがあります。本来、宿泊先となるホテルがインボイスを交付しなくてはいけません。ただし、宿泊施設予約サイトが適格請求書発行事業者である場合は、祝は期先(委託者)に代わってインボイスを交付することが可能です(媒介者交付特例)。しかし、海外のサービスであるなどの理由で宿泊施設予約サイトが適格請求書発行事業者ではない場合は、原則通り委託者=宿泊先がインボイスを交付することになります。
インボイスが手に入らない場合はどうする?
宿泊施設予約サイトを利用した場合のインボイスの扱いは、宿泊施設によっても異なるのが実情です。一部の宿泊施設では「海外のサービスからオンライン決済で予約した場合は領収書(インボイス)を発行しない」と明言されていることがあります。このような場合「インボイスがないから経費精算には応じない」とするのは得策ではありません。
インボイス制度においては「出張旅費等特例」といって、従業員等に支給する出張旅費等のうち、その露光に通常必要であると認められる部分の金額は、帳簿のみの保存による仕入税額控除ができるという規定が設けられています。つまり「社内規程の有無、概算払いか実費精算かに関わらず、通常必要と認められる部分であれば、出張旅費特例の対象」となるということです。仮に、海外のサービスを使いホテルを予約して出張に行った従業員が実費請求してきたとしても、通常必要と認められるのであれば特例を利用することが可能となります。現実的には、海外のサービス上のマイページに掲載されている予約履歴や出張命令書など「実際に出張に行ったことを客観的に証明できる書類」を保存しておけば問題ありません。
2024/10
税務署から連絡がきたらどうすべき?現実的な対応マニュアル
連絡が来るのは疑問があるから
税務署から連絡が来ると、ほとんどの人は驚いてどうすれば良いかわからなくなるかもしれません。しかし、他のトラブルと同様、まずは落ち着いて対処するのが望ましいです。ここで、そもそもなぜ税務署が連絡してくるのかを考えてみましょう。一言でまとめると「税金に関して疑問点があるから」です。たとえば、消費税の申告で2割特例を用いて申告したはずなのに、金額が間違っていたのでその分の修正申告を求めるなど、はた目から見れば「ただの事務処理上のミス」の場合でも、税務署から連絡してくることがあります。このような場合は、言われたことに答えて、必要な対応をしていれば特に問題はありません。
問題になるのは、本来は確定申告すべきだったのに申告していなかったり、経理処理問題があり、修正申告が必要と判断される恐れがあったりしたなどの深刻なケースです。このような場合も、自分にやましいところがなければ堂々としていれば良いのですが、そうはいかない場合もあります。税務調査が行われるのも時間の問題であるため、以降において対応策を解説しましょう。
どんな些細なことでも税理士に相談して
具体的な対応策の流れは以下のとおりです。
1. 何に対して税務調査を行うか確認し、担当者の名前・部門・税務署名を記録しておく
2. 税理士に連絡し、税務調査の立ち会いを頼みたい旨を伝える
3. 税理士と打ち合わせをし、用意すべき帳簿や当日のふるまい方など、細かい対応についてすり合わせる
4. 税務調査の当日は税理士に立ち会ってもらい、税務署の調査官への質問に答える
5. 税務調査が終わったら(必要なら)修正申告を行い、納税する
なお、税務署が納税者の同意を得て行う税務調査のことを任意調査と言いますが、基本的に断ることはできないので注意して下さい。それでも、税理士に相談し、聞かれたことにだけ答えていれば特段問題ありません。
また、税務調査を受けるとなると「もしかしたら自分は逮捕されるのか?」と不安に思う人もいるかもしれませんが、税務署によるものであればほぼその心配はありません。
しかし、同じ税務調査でも強制調査といって、納税者の同意なしに強制的に行う税務調査だった場合は、話は異なってきます。国税局の査察部が捜査令状を持参した上で調査を行うので拒否はできません。そのうえ、刑事処分を前提としているため、逮捕される可能性も十分にあります。ただし、強制調査は脱税額が1億円以上など極めて悪質なケースを前提としているので、大半の人にとっては関係ないと考えてください。
いずれにしても、税務署から電話がかかってきて、税務調査に話が及んだ場合は、税理士に確認して対応を進めるのをおすすめします。
2024/09
会社員のふるさと納税は要注意。ワンストップ特例制度とは?
ふるさと納税をすれば還付・控除が受けられるわけではない
ふるさと納税とは、特定の自治体に寄附をすると、翌年に所得税の還付や住民税からの控除が受けられ、かつ、返礼品が受け取れる制度です。寄附金控除の一種ですが、米・肉・魚など食品の返礼品を受け取って節約に役立てたり、限定イベント・ツアーに参加したりなど、取り入れる人も多くなっています。昨今はふるさと納税用のポータルサイトも充実しており、インターネット通販で買い物をする感覚で利用可能です。
ただし「ふるさと納税をするだけでは、所得税の還付や住民税からの控除は受けられない」ことに注意しなくてはいけません。ふるさと納税をした年の翌年に、寄附金受領証明書、対象期間の源泉徴収票(給与所得者の場合)、還付金の受け取り口座の情報がわかるもの(キャッシュカードなど)、マイナンバーカードを揃えて確定申告をする必要があります。
フリーランスで仕事をしている個人事業主など、もともと確定申告をする必要がある立場の人なら、特段問題ないでしょう。しかし、会社員や公務員などの給与所得者の場合、給与から所得税・住民税が源泉徴収されるため、医療費控除を受けるなど理由がないと確定申告をしないのが実情です。面倒くさいからといって確定申告をしないと、ふるさと納税による恩恵を受けられないので注意しましょう。
ワンストップ特例制度を使おう
実は、確定申告をせずにふるさと納税による所得税の還付や住民税からの控除を受けるための方法として、ワンストップ特例制度が設けられています。これは、以下の条件を満たす場合に利用できる制度です。
● 確定申告をする必要がない
● 1年間での寄附先が5自治体以内
2つの条件を満たせば、翌年の1月10日までに申請を行うことで、住民税からの控除が受けられるようになります。確定申告をした場合とは異なり、所得税の還付は受けられません。
なお、申請はオンラインもしくは郵送で行いますが、郵送の場合、1月10日までに書類が到着している必要があります。期限に間に合いそうにない場合は確定申告もしくは、オンラインでの申請を選びましょう。
また、会社員や公務員などの給与所得者であっても、1年間での寄附先が6自治体以上となる場合は確定申告をしなくてはいけません。ただし、あくまで「寄附先となった自治体の数」が基準となるため、1年間で6回以上の寄附をしたとしても、自治体の数は5自治体以下だった場合はワンストップ特例制度が利用できます。
ふるさと納税は自分や家族が育った場所など、思い入れのある自治体に寄附できるうえに、返礼品も受け取れる便利な制度です。しかし、よく知らないで利用してしまうとかえって損をしかねません。分からない場合は税理士などの専門家や税務署に聞いて、疑問を解消しておきましょう。
2024/08
NISAの非課税期間は無期限へ。その他の変更点も含めておさらい
ロールオーバーはなくなった
NISA(少額投資非課税制度)とは、一定の条件を満たす形で、専用口座を通じて株式・投資信託などの金融資産を運用すると、売却益や配当益にかかる税金が非課税になる制度です。国民の投資に対する意欲を発揚するための制度として2014年にスタートしましたが、2024年には大幅な改正が加えられました。
その一環が非課税期間の扱いです。2023年12月までの制度(旧NISA)では、非課税期間は一般NISAが5年、つみたてNISAが20年となっていました。そして、非課税期間が終了した場合、ロールオーバーといって翌年の非課税投資枠に移管するか、課税口座(特定・一般)に移管するかのいずれかで対応しなくてはいけませんでした。しかし、2024年1月からの制度(新NISA)では非課税期間が恒久化されているため、ロールオーバーという考え方が実質的に消滅しています。なお、旧NISA口座で所有していた金融商品を新NISA口座へ移管することはできません。どうしても同じ金融商品を新NISA口座に移管したいのであれば、一度売却したうえで、その資金を用いて新NISAで購入しなおすのが現実的な選択肢になります。
その他にも大幅な変更が加えられている
旧NISAと新NISAの違いにおいて、税金という意味で大きいのがロールオーバーの扱いですが、他にもさまざまな変更が加えられています。まず、旧NISAでは同一人物が一般NISAとつみたてNISAを併用することはできませんでした。どちらか一方を選択する必要がありましたが、新NISAでは成長投資枠とつみたて投資枠の併用が可能になっています。
また、年間投資枠は成長投資枠が240万円、つみたて投資枠が120万円の合計360万円と、従前から大幅に増えています。旧NISAでの年間投資枠は一般NISAが120万円、つみたてNISAが40万円であり、しかも併用ができなかったことを考えると、かなり使いやすくなりました。
また、新NISAでは旧NISA同様、1,800万円(うち成長投資枠が1,200万円)非課税保有限度額が決められています。しかし、新NISAでは運用していた資産を売却すると、使った非課税枠が復活するルールが設けられました。このため、実際は生涯で1,800万円を超える金融資産を非課税で運用することが可能です。
運用益、売却益が非課税になれば、その分を再投資に回すことで、効率的に資産を増やせます。これまで投資にはいまいち踏み切れなかったという方も、毎月1,000円程度から始められる金融機関もあるのでぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
2024/07
【要確認】個人事業主の定額減税の取り扱いについて
物価高対策のひとつとして4万円が減税される
2024年6月末には、1ドル=161円台まで値下がりするという深刻な円安が続いています。その他の影響もあり、深刻な物価高が続いていることから、政府はさまざまな対策を打ち出しました。その1つが定額減税で、1人あたり所得税3万円、住民税1万円の合計4万円から納税額から減税されます。なお、本人以外にも同一生計配偶者または扶養親族がいれば、1人につき合計4万円の減税を受けることが可能です。
ただし、令和6年分の所得税にかかる合計所得金額が1,805万円以下である居住者のみを対象としています。合計所得金額が1,805万円超(会社員の場合給与が2,000万円超)の場合や、非居住者(海外に1年以上継続して住んでいる人)の場合は対象となりません。給与所得者であれば、令和6年6月1日以降最初に支払われる給与等(賞与含む)に係る源泉徴収税額から定額減税額に相当する金額が控除されます。控除しきれない場合は、令和6年中に支払われる給与等に係る源泉徴収税額から順次控除される仕組みです。
事業所得者の場合の手続きは?
事業所得者・不動産所得者など、自分で事業を営んで収入を得ている場合、確定申告もしくは予定納税の手続きにおいて定額減税額を控除することが必要です。まず、予定納税を行わない場合は、原則として令和6年分の所得税の額から定額減税額を控除します。
一方、予定納税をしている場合、定額減税分は予定納税額から差し引かれます。第1期分予定納税額から定額減税額を控除してもしきれなかった場合、第2期分予定納税額から控除される仕組みです。その後、確定申告の際は、予定納税額も踏まえて最終的な年間所得税額と定額減税額との調整を行います。
注意したいのは、予定納税をしていて、かつ、扶養家族がいる場合です。「予定納税額の減額申請手続き」をしなくてはいけないため、国税庁のWEBサイトから減額申請書を入手し、必要事項を記入して期限まで(7月減額申請の場合は2024年7月31日まで)に税務署に提出しましょう。
たとえば、夫が自営業、妻が扶養内のアルバイト(給与収入が100万円)、子どもが小学生と仮定した場合、予定納税特別控除額として9万円(本人分3万円、家族分6万円)が差し引けます。
いずれにしても注意したいのは、事業所得者の場合、自分から動かないと定額減税の恩恵は受けられないことです。確定申告もしくは予定納税の手続きをする際は、定額減税のことを忘れないようにしましょう。
2024/06
インボイス登録したけど消費税申告を忘れた!今からできる対処法
インボイス登録をすれば消費税の申告・納税が必要
2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が本格的に開始されました。そして、適格請求書発行事業者としての登録=インボイス登録を済ませると、翌年の3月31日までに申告書を作成し、納税する必要が出てきます。これまで免税事業者だったものの、登録を済ませて適格請求書発行事業者になった場合は、2割特例といって、売上にかかる消費税額の2割を納付税額とすることが可能です。これにより大幅に納税額を安くできます。
また、講師・ライターなど報酬から所得税が源泉徴収を受ける仕事をしている場合、所得税は還付される一方、消費税は納税しなくてはいけない、ということがあるかもしれません。例えば、所得税は15万円還付されるものの、消費税として7万円納税しなくてはいけない場合、両者の差額として8万円が還付されるという扱いにすることもできます。
このように、所得税の還付金を充当して欲しい場合は、充当申出書を税務署に提出しましょう。特に決まった書式があるわけではありませんが、以下の項目を記載して税務署に出せば構いません。
● 提出先
● 提出日
● 納税者の詳細(納税地、住所等、法人であれば名称、代表者氏名、ある場合は納税管理人など)
● 税理士氏名、連絡先
● 還付金を納付税額に充当したい旨
● 納付税額の詳細(税目、金額、事業年度等)
● 還付金の詳細(税目、金額、事業年度等)
本来3月末までの消費税の申告・納税に遅れた場合は?
前述したように、消費税の申告・納税は3月末までに行わないといけません。1日でも遅れてしまうと期限後申告になるため、無申告加算税や延滞税を納めなくてはいけません。まず、無申告加算税の額は、納付すべき税額に対し、50万円までの部分は15パーセント、50万円を超える部分は20パーセントの割合を乗じて計算した金額です。つまり、本来納付すべき金額が10万円だった場合、1万5,000円が無申告加算税としてかかります。
また、延滞税は本来の納期限から2ヶ月を経過する日までは年7.3%、それ以降は年14.6%が課される仕組みです。つまり、本来納付すべき額が10万円で、30日間延滞した場合は600円かかります。
ただし、期限後であっても自主的に申告した場合、無申告加算税は納付すべき税額の5%にまで軽減されます。加えて、無申告加算税の額が5,000円未満、延滞税の額が1,000円未満の場合は納付する必要はありません。
いずれにしても、遅れれば遅れるほど払わなくてはいけない金額が増えていくので、気が付いた時点ですぐに税務署に連絡しましょう。事前に税理士に相談し、一緒に税務署で話をしてもらうのも1つの手段です。
2024/05
税金で物価対策?定額減税とは
定額減税の目的は物価高に備えること
2024年4月現在、日本はかなりの円安に突入しており、海外からの材料の調達コストもそれにともない高騰しています。また、国際的にも2022年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻など、原材料価格を高騰させる事象が相次いでおり、私たちの暮らしにも物価高という形で影響が及んでいるのが実情です。
そこで、日本では国民の負担を和らげるための施策の一環として、定額減税を導入しました。これは、2024年(令和6年)4月1日に施行された「令和6年度税制改正法」に含まれる制度で、納税者本人およびその扶養家族1名について、所得税3万円、住民税1万円の合計4万円を2024年の税金から控除できます。ただし、所得税にかかる合計所得金額が1,805万円超の場合(給与所得者の場合は2,000万円超の場合)対象になりません。
なお、控除のされ方が会社員やパート・アルバイトなどの給与所得者と、自営業・フリーランスなどの事業所得者とは違う点に注意が必要です。まず、前者の場合、所得税の減税は2024年(令和6年)6月分の源泉所得税から、住民税は7月から開始する予定です。一方、後者の場合は2024(令和6年)年分の確定申告の際に給与所得者と同様の特別控除が受けられます。つまり、2025年2月16日~3月15日の間に確定申告をし、その時に税金を減らしてもらえると考えましょう。ただし、予定納税がある場合は2024年7月の第一期から減税 されます。
また、所得税・住民税の非課税世帯に関しては、給付金支給制度として最大10万円が支給される仕組みです。
定額減税に対して企業は何をすれば良い?
定額減税は簡単にいうと「物価高なので税金を減らしましょう」という制度であるため、国民にとっては非常に恩恵の大きな制度です。
ただし、企業にとってはやや負担の大きくなる制度であることにも注意しなくてはいけません。原因として指摘できるのが、所得税の源泉徴収です。企業は従業員に給与を支給する際に所得税を源泉徴収(天引き)しているはずですが、定額減税が実施されると源泉徴収すべき金額も変わってきます。個々の従業員に扶養家族が何人いるかなどのヒアリングを行い、正確な減税額を出さなくてはいけません。
また、減税額が大きく引ききれないこともあるため、何ヶ月も計算し続ける必要がある点にも注意が必要です。定額減税対象者の判定や、家族情報の登録内容を基にした定額減税額の算出・管理などの業務に耐えられる体制を作りましょう。早いうちから税理士などの専門家に相談するとともに、経理担当者がいるなら話し合いをし、業務フローを整えておく必要があります。
2024/04
2024年4月1日から相続登記が義務化へ。経緯や罰則を知ろう
相続登記が行われない弊害が顕在化した
相続登記とは、亡くなった人=被相続人から土地を受け継いだ場合に、その土地の名義を受け継いだ人=相続人に変更する手続きのことです。相続人本人もしくは依頼を受けた司法書士が行いますが、実はこれまでは「死亡後〇ヵ月以内に行わなくてはいけない」という明確な決まりがありませんでした。極論すれば、遺族が何もしなければ、土地の名義は被相続人のままになっていたということです。手続きが面倒、固定資産税を払いたくないなど相続登記をしない理由はさまざまですが、このことは「所有者不明の土地が増える」という弊害につながりました。
国土交通省が平成28(2016)年に公表した「所有者不明土地の実態把握の状況について」によれば、調査委対象となった土地のうち「登記簿のみでは所在不明」とされたのは20.1%、「最終的に所在不明」とされたのは0.41%にのぼります。全体の約20%の土地が「持ち主がわからない」状態に陥っているということです。
持ち主がわからない以上、勝手に処分するわけにもいかないうえに、管理されずに放置され、周辺の環境や治安の悪化を招くなど、さまざまな問題が生じていました。
タイムリミットは3年以内
相続登記を義務化しなかったことによる弊害が顕在化したことで、国も相続登記の義務化に動きました。2024年4月1日に改正不動産登記法が施行されるため、「相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内」に相続登記を済ませる必要があります。遺産分割協議の結果として不動産を取得した場合は、遺産分割された日から3年以内が期限です。
なお、正当な理由がないのに期限以内に相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が求められるおそれがあります。加えて、不動産の所有者の住所・氏名に変更があった場合にも、2年以内の変更手続きが必要です。「法的な所有者は誰で、どこに住んでいるのか」を明らかにするのがこの改正の趣旨でもある以上、しかるべき改正といえるでしょう。
注意したいのは、法改正後に相続した土地だけでなく、改正前に相続した土地でも、相続登記の義務化の効果が及ぶことです。つまり、相続登記が完了していないなら、改正法の施行日から3年以内に相続登記をしなくてはいけません。
相続登記の手続きは、相続する不動産を管轄している法務局に申請します。自分が相続した不動産に関しての手続きなら、司法書士や弁護士などの資格がなくても行うことが可能です。ただし、慣れないと難しい部分もあるうえに、不動産の権利関係が複雑になっていることもあるので「もう無理」と感じたら、専門家に相談しましょう。
2024/03
インボイス開始で経理業務はどう変わる?
自社が「請求する側」ならさほど負担はない
2023年10月からインボイス制度が開始されました。簡単にいうと仕入税額控除を受けるためには、取引先が発行した適格請求書が必要になる制度です。そして、適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られます。これを踏まえて、経理業務に及ぼす影響を考えてみましょう。
まず、自社が「請求する側」であれば、適格請求書発行事業者としての登録を済ませ、請求書をインボイス制度における要件を満たすものにすれば問題ありません。ただし、端数処理のルールが「1つの適格請求書につき、税率ごとに1回ずつ端数処理を行う」ように変更されたので、その点には注意しましょう。
やや大変なのは自社が「支払う側」だった場合です。適格請求書発行事業者ではない取引先とやり取りをしている場合は業務が増える可能性があるため特に注意しましょう。
自社が「支払う側」だった場合にやるべきことは?
自社が「支払う側」だった場合、経理業務として行うことがやや複雑になります。
まず、取引先から請求書などの証憑が届いたら、適格請求書かそうでないかを判別しなくてはいけません。適格請求書であれば「登録番号」「税率ごとの消費税額が書いてあるので、目印にしましょう。ただし、可能性としては低いですが、適格請求書発行事業者としての登録を受けていない取引先が不正に適格請求書を発行している可能性もあります。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で調べましょう。
適格請求書をより分けたら、書いてある内容をチェックしなくてはいけません。消費税額が正しいか、「仕入税額控除対象の課税仕入10%」「(控除対象外の)課税仕入10%」「仕入税額控除対象の課税仕入8%」「(控除対象外の)課税仕入8%」という税区分になっているかを調べる必要があります。
また、取引によっても適格請求書の補完がいる取引とそうでない取引があるため注意が必要です。たとえば、公共交通機関の運賃や自動販売機からの購入、従業員に⽀給する出張旅費・宿泊費・⽇当・通勤⼿当や、税込1万円未満の課税仕⼊などは、一定の事項を記載した帳簿があれば仕入税額控除が受けられます。
最後に、一定の事項が記載された適格請求書を保存できるだけのスペースを確保しなくてはいけません。特に、PDFなどの電子データで受け取った場合、そのまま保管する必要があるため、サーバ内に専用フォルダを作るなどの対応が求められます。
いずれにしても、自社の対応状況を見直し、問題があると判断されたら税理士に相談し、改善を試みましょう。
2024/02
副業の出費、どこまで経費として落とせる?期限に遅れるとどうなるの?
「その事業に必要か」がカギになる
これまで、会社員は副業が禁止されているのが一般的でしたが、平成30年にモデル就業規則が改正され、副業・兼業に関する規制が緩和されました。そのため「会社員の傍ら、副業をしている」という人も珍しくありません。
副業をしている場合、所得税の確定申告を行い、納税をする必要があります。つまり、1年間の収益から費用を差し引き、求めた利益=所得に税率をかけ、所得税を計算し、その金額を納めなくてはいけません。ここでどこまでを費用=経費として計上して良いかが問題になります。
重要な考え方のひとつが「その事業において収益を獲得するために必要と判断されるか」です。例えば、旅行ひとつとっても、個人的な楽しみのために行くなら経費にはなりませんが、旅行に関するWebサイトの作成を副業にしている場合は立派な取材になります。取材である以上、かかった経費を費用として計上する余地はあるはずです。
このように、同じような出費でも、経費として計上できるかは副業の性質によっても異なります。判断が難しい場合は、税理士や税務署に相談したうえで扱いを決めましょう。
期限に遅れると何かと面倒なので要注意
本来、会社勤めをしている場合は、確定申告をする必要はありません。勤務先が年末調整をしてくれるためです。しかし、副業をしている人は、得られた利益=所得が20万円を超えるなら、自分で確定申告をしなくてはいけません。そして、所得税の確定申告は、毎年2月16日~3月15日(当日が休みの場合は休み明けの平日)までに行う必要があります。
仮に1日でも遅れてしまった場合、ペナルティとして無申告加算税および延滞税が課されるので要注意です。無申告加算税とは、期限までに申告書を出さなかったことによるペナルティとして課される税金を指します。自分から「申告書出し忘れた」と気が付いて慌てて出した場合は、自主的な期限後申告と判断されるので、本来納付すべき金額に5%の割合を乗じて計算した額を払わなくてはいけません。
また、本来の納付期限を過ぎて納税することに対する利息です。クレジットカードの支払日に遅れた場合の遅延損害金をイメージするとわかりやすいでしょう。法定納期限の翌日から2ヶ月を経過する日までは原則として7.3%、納期限の翌日から2ヶ月を経過した日以後は14.6%とされています。いずれにしても重要なのは、気が付いた時点ですぐに動くことです。自分だけでは無理、という場合は税理士に相談しましょう。
2024/01
令和6年与党税制改正大綱が公表。中小企業の場合の賃上げ促進税制はどうなる?
■「えるぼし」「くるみん」がプラス要素に
2023年12月14日、令和6年度税制改正大綱が自民党の総務会にて了承されました。さまざまなトピックが盛り込まれていますが、その中の一つが賃上げです。同大綱では賃上げ・投資促進のための減税措置(主に税額控除)が複数盛り込まれています。
前提となる知識として、中小企業向け賃上げ促進税制がどんな制度かをおさらいしておきましょう。一言でいうと、中小企業者等が前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主の場合は所得税)から控除できる制度です。令和4年4月1日から令和6年3月31日までの期間内に開始する各事業年度においては、「雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加」した場合に給与等の増加分に対して15%の控除が受けられました。
ここからさらに「雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加」すれば15%、「教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加」すれば10%控除率が上乗せされます。つまり、最大で40%の控除が受けられる仕組みです。
令和6年税制改正大綱ではこれらに加え、女性活躍推進法に基づく認定(えるぼし認定)や次世代育成支援対策推進法に基づく認定(くるみん認定)の取得により、さらに5%控除率が上乗せされます。子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進の取り組みを後押しするための制度です。
■繰越控除も導入。公的制度も利用して賃上げを目指そう
加えて、令和6年税制改正対応では、繰越控除制度の導入も盛り込まれました。前提として、赤字企業(欠損法人)である場合、法人税の支払い義務がないため税額控除の恩恵にもあずかれません。
このことが、赤字企業において賃上げ促進税制の導入が進まない一因になっていたことも踏まえ、当期に控除できなかった税額控除の額を、5年間にわたって繰り越せるようになります。つまり、赤字の当期に賃上げをし、税額控除の権利を得れば、翌期以降の黒字分を控除で相殺し、法人税の減税が可能です。
ここまでの内容にもあるように、賃上げをすることは税額を減らすことになるうえに、従業員の満足度を高めるという意味でも大変有意義です。しかし実際は「賃上げをしたいのはやまやまだけど、何をすれば良いかわからなくて」と悩む事業主の方も多いのではないでしょうか?業務改善助成金やキャリアアップ助成金、企業活力強化貸付など、中小企業が賃上げに利用できる公的な制度は複数あります。賃上げ促進税制の導入を見据えて環境整備に取り組みたい事業主の方は、税理士にまずはご相談してみてはいかがでしょうか。
※参考URL※
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin04gudebook.pdf
https://sr.platworks.jp/column/2536
https://www.ntt.com/bizon/d/00513.html